信号処理のノウハウ

同期測定の種類

同期した測定とは複数の信号を等しいタイミングで測定することを指します。等しいタイミングの定義は様々あります。

  • スタートタイミングをそろえる
  • 測定器の内部のクロックをそろえて測定間隔をそろえる
  • 定期的にタイミング誤差を補正する

AirLogger™では測定ユニットを無線で動かすことからPC通信ユニットから定期的に同期信号を出し測定ユニット間の測定タイミングをそろえています。(100msサンプリング以上の場合)
50msサンプリング以下の高速サンプリングの場合はスタートタイミングをそろえる同期になります。
WM2000の標準ソフトでは高速サンプリングでのスタートタイミングとストップタイミングから測定後の演算によりクロックを補正する機能があります。クロック補正機能を使うことで測定ユニット間の測定タイミングをそろえることができます。
使い方集:高速サンプリング時の同期性の改善 クロック補正機能

サンプリング周波数(周期)と信号周波数(周期)~2倍のサンプリングでは足りない~

サンプリング定理から、2倍の周波数でサンプリングすれば問題ないと印象を持ってしまいますが、データロガーで測定し、直接波形を見る限りではデータ数は足りません。

図は周波数1Hz(周期1s)の正弦波(余弦波)を周波数の2倍・4倍・8倍でサンプリングした場合の波形です。
位相を45度・60度・90度と変えると波形は図のようになります。
4倍までは位相によって波形が変わってしまっています。
見た目に再現よく波形を取り込むには周波数の8倍以上は必要になります。

また、パルスなど高調波を含む信号の場合で波形が鋭角になると頂点を抽出することはさらに難しくなります。
※ サンプリング定理は最高周波数の2倍であり、波形の繰り返し周波数の2倍ではありません。

信号周波数の10倍でサンプリングしサンプリング周波数の1/10のカットオフ周波数のローパスフィルタを使用して測定すると、高い周波数成分がフィルターで抑圧されるため安定した結果が得られます。

サンプリングと波形の再現について

信号は連続値ですが測定値はサンプリング周波数に応じた離散値として取り込み、離散値をつないだ線で波形を表示します。
下の図のように21点で測定した結果を1/4に間引いて5点にすると別の波形に見えてきます。
サンプリング周波数は測定する信号の周波数成分より十分高い周波数にする必要があります。
三角波のピークでは特に顕著です。
サンプリングが少ないと頂点が欠けます。

信号の周波数は低く、周波数の高い成分はノイズの場合、サンプリング周波数を高く測定し、ローパスフィルタで緩やかな変化にしてから測定値を間引くことで再現性の高い信号を測定することができます。
AirLogger™では標準ソフトで測定後に測定結果をデジタルフィルタでノイズ除去可能です。 測定点数を減らすためにサンプリング周期を増やす間引き機能があります。

この二つの機能を使うことで測定値の信号周波数を制限し安定した測定結果を得ることができます。

使い方集:デジタルフィルタ
使い方集:測定後の間引き

振幅情報のみを取り出す(AM検波・包絡線検波)

交流信号の振幅だけを取り出すことはAM検波により実現できます。
簡単なAM検波回路は図のように全波整流回路とローパスフィルタで実現できます。

AM検波は演算で簡単に実現することができます。

  • 測定点の信号を変換式で2乗の平方根を取り込みます
  • 測定結果にローパスフィルタをかけます

以上の2工程で振幅情報のみの波形になります。

振幅情報のみに変換した後にはサンプリング周期を減らすことができます。
変換した測定結果を間引くことでデータを軽くして取り扱うことができます。

2値表示の仕方

AirLogger™ではレンジ外の電圧を入力すると出力値は ”Out Of Range” と表示されます。

WM1000
WM2000TA
csvファイル
NAME Sensor3-1
0 Out of Range
1 Out of Range
2 Out of Range
3 Out of Range
4 -5.28
5 -5.13
6 -5.15
7 -5.13
8 -4.8
9 Out of Range
10 Out of Range
11 Out of Range
12 Out of Range
13 Out of Range
14 -5.13
15 -5.04

ログにゲート表示したい場合は最大絶対定格電圧以内で設定レンジ以上のパルス電圧を入力し0Vと ”Out Of Range” で実現できます。
CSVファイルで取り出したファイル上では文字の置換により一括で文字を入れ替えれば ”Out Of Range” を任意の文字に変更できます。

文字で記載する場合
“Out of Range” -> “試験中”
NAME Sensor3-1
0 試験中
1 試験中
2 試験中
3 試験中
4 -5.28
5 -5.13
6 -5.15
7 -5.13
8 -4.8
数字で記載する場合
(数字で記載すると別途作成する特性グラフで重ね書きを簡単にできます)
“Out of Range” -> 100

デジタルフィルタについて

測定データには信号にノイズが加算されています。信号は変えずにノイズだけ除去するためにフィルタを使います。
フィルタには様々な種類があります。
よく使われているフィルタにローパスフィルタ(LPF)とハイパスフィルタ(HPF)があります。

この2種類のフィルタは、データの指定した周波数(カットオフ周波数)より高い周波数を除去(LPF)もしくは低い周波数を除去(HPF)します。
LPFはカットオフ周波数以上の周波数のデータを除去し、時間波形で見ると小刻みに変動するノイズを除去し滑らかな波形にします。
HPFはカットオフ周波数以下の周波数のデータを除去し、時間波形で見るとオフセットデータやゆっくり変動する揺らぎなどのノイズを除去することができます。

フィルタイメージ

フィルタをデジタルデータ処理で実現したものをデジタルフィルタと呼びます。
デジタルフィルタで作ったLPFの特性は図のようになります。

一般的に阻止帯域の特性は繰り返しの山を持ち振幅が0になる周波数をノッチ周波数と呼びます。

最も単純なデジタルフィルタは前後のデータの平均を取った移動平均です。
移動平均のフィルタ特性はLPFでsinc関数になります。
ノッチ周波数は平均をとる範囲によって決まります。
(1sサンプリングで10データの移動平均ならノッチ周波数は0.1Hzの整数倍)

WM2000シリーズの標準ソフトではParks – McClellan法により設計されたFIRフィルタを使用しています。
使用方法は取扱説明書の ”フィルタ演算” の項もしくは使い方集の ”デジタルフィルタ” をご覧ください。

使い方集:デジタルフィルタ

商用周波数のノイズ除去方法

AC電源に影響されたノイズは大きな値を持つ場合があります。
AC電源の周波数は固定のためその周波数のみの除去率が高いフィルタが求められます。

デジタルフィルタは阻止帯域にノッチを持ちます。
ノッチの周波数をAC電源の周波数と一致させることで、手軽に大幅なノイズ除去ができます。
ノッチ周波数はデジタルフィルタのサンプリング周期、サンプリング数、フィルタの種類によって決まります。

測定した生データと変換式を使った結果を同時に抽出する方法(マルチデータ演算機能)

WM2000シリーズでは測定値を変換式で演算した結果を出力することができます。
通常の変換式を利用して結果を抽出すると変換した後の結果のみ確認することができ、変換前の結果を見ることができません。
複数の測定値を使って演算することを目的としたマルチデータ演算機能を使うことで変換前後のデータを同時に表示することが可能になります。
マルチデータ演算機能は単チャンネルでの演算も登録可能です。

照度センサを使いセンサの出力電圧と変換後の照度を表示した結果を以下のように表示できます。
使い方集:異なるチャンネルの測定値で演算する方法 マルチデータ演算機能